昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

2019-01-01から1年間の記事一覧

天然痘ー未刊原稿より(続)

この効果を得るためには、下着、シーツ、マットレスカバー、服、毛布その他 類似した物は、沸騰したお湯の中で約15分煮沸するのだ。絶対に煮沸する前に 汚れた物を洗濯屋に出してはいけないよ。 その他の物、マットレス、藁布団、クッションなどで、煮沸した…

天然痘ー未刊原稿より

ファーブルの未刊原稿の中から天然痘の記事を掲載する。 天然痘は今は馴染みの薄い感染症だが、感染力が強く直接攻撃できる薬も無いので 最強ウイルスの一つではないかと思われる。 この世に数えきれないほどのウイルスがあって、いったい最強とは何なのかと…

細菌ー未刊原稿より

以前入手したファーブルの未刊原稿からテーマ別に少しづつ紹介したい。 一連の原稿は啓蒙的な内容で執筆していたようだが未刊となった理由は不明である。 ファーブルの教科書なども類書が増え売れなくなっていた頃かもしれない。 原稿の一部にはコミューンの…

娘クレールへの手紙

前回書いたような碌でもない夫と家出、駆け落ちしてしまったクレールだが ファーブル先生は娘に強い愛情を持っていた。 だからこそ結婚に強く反対もしたのだと考えられる。 父から見ればもっと甲斐性のある男、立派な人物と一緒になって欲しかっただろう。 …

ファーブル家の騒動ーソーテル氏との確執

しばらく前になるが、ファーブルの原稿や書簡の売り立てがフランスであった。 今なら迷わず目を輝かせ飛びつくところなのだが、当時は入札できるような 状態でなく心身共に不調な時期だった。 懐具合だけでなく、どうも体調の良し悪しはオークションに影響す…

ファーブルと聖書ーパウロ

今までのブログで何度か述べてきたが、ファーブルはカトリックの様式に従って逝去 したものの、真のキリスト教徒ではなかった。 これはファーブル自身も述べていることであり、晩年アヴィニョンのラッティ大司教 が直接訪ねて来たり、書簡をファーブルに送り…

父アントワーヌからの手紙

ファーブルの父親の肖像が残っているが、骨太で頑丈そうな顔つきである。 身体も丈夫でアルファベットのIの文字のように背筋がしゃんとしていたそうだ。 1800年にマラヴァルで生まれ1893年1月にセリニャンで逝去している。 およそ92歳の人生だったのでファ…

コルシカ島ーレヌッチからの手紙(続々)

レヌッチからファーブル宛のもう一通の手紙は1853年11月8日の日付である。 一通目の手紙から1年8ヶ月も離れている。 この間どの程度やり取りがあったかは不明である。 ファーブルはマラリア回復後に約束通りいったんコルシカ島へ戻るが、数ヶ月で アヴィニョ…

コルシカ島ーレヌッチからの手紙(続)

(一通目の手紙…続き) このように、まず発熱があり、次に試験があり、また最後に熱が出たという訳で、 長くご無沙汰していたのには3つの正当な理由があるのです。 先生はわたしにドノヴァニィ巻貝と二枚貝のスケッチをお尋ねになりました。 もしかしたらわ…

コルシカ島ーレヌッチからの手紙

ファーブルはコルシカ島赴任中にコルシカの貝類学および植物学についての出版を 計画していた。そして地元の協力者を得て貝や植物などの収集に励んでいた。 美しい自然を前にしてファーブルの若き探究心は無限に膨らんでいたことだろう。 まだこれといった業…

ファーブルの家系図ー二度目の結婚

最初の結婚で伴侶となった教員のマリ=セザリーヌは、64歳の1885年にセリニャン で亡くなった。仕立て屋の娘として生まれ、23歳の1844年にファーブルと結婚して から40年以上にわたり苦楽を共にしてきたパートナーだった。 死因については不明で、ファーブル…

コメントへの返信

前回ブログにコメントを頂戴しました、ありがとうございました。 答えになっているかわかりませんが、わかる範囲で書いておきたいと思います。 資料に乏しく小生の意見も憶測が混じっておりますので、話半分程度にお聞き流し 下されば幸いです。 ただ真偽は…

閑話(7)ーミルと丹毒

ファーブルの恩人、イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルの死因は丹毒 という病気だった。顔面という場所がわかりやすいので死因がはっきりしている。 (ファーブル伝 平凡社には水泡性丹毒と記載) 変わった病名だが、丹は赤いという意味があるので…

エミールーサヴォワ助任司祭の信仰告白

前回のブログでルソーの「エミール」に触れた。ファーブルとも関連のありそうな 部分がまだあるのでもう少し触れておきたい。 「エミール」は小生には少々くどすぎるが、その第4編には作品の白眉といっても よい「サヴォワ助任司祭の信仰告白」という長文が…

ファーブルの家系図ーエミールという名前

系譜学とか系図学(genealogy)という学問があるそうで、これは特定の人の 家系図を作るというものだ。 ファーブルの家系図についてもサイトで調べてみると、かなりの部分が公開され ていて古い祖先だと17世紀の人までさかのぼれる。しっかりした家系図が公…

ファーブルの家系図ー最初の結婚

ファーブルの家系図をよく眺めている。 こんなものを見ている人などいったいどれだけいるのかなぁ…と時々思う。 参考にするのは1989年版のフランス発行2冊組の昆虫記第1巻にあるもので、 ファーブル研究で高名なイブ・ドランジュ博士序文の後に掲載されてい…

ポールの写真

もうしばらく前になるが、やはり海外のサイト経由で書籍を購入していた時に、 あるフランス人の方と知り合いになった。 そのサイトで何を買ったか忘れてしまったのだが、たぶんファーブルの古い教科書 など購入したのかもしれない。わざわざ日本から何冊も頼…

パスツールー狂犬病ワクチン

パスツールの業績を挙げればきりがないが、人類に貢献した点で最も目を引くのは 狂犬病ワクチンの開発だ。 狂犬病は発病している動物に咬まれることにより、唾液に含まれるウイルスが侵入 する。咬まれた場所、数、深さなどによって発病までの潜伏期間は大き…

パスツールーラボレムス!

ラボレムス (Laboremus) というラテン語をファーブルが気に入っていたことは 述べた。(記事:ラボレムス-Laboremus 参照) 古代ローマ皇帝が兵士に与えた合言葉であり、昆虫記第10巻にもファーブルが 自身を叱咤する言葉として記載している。 ファーブルは…

パスツールの訪問

フランスの生化学者、細菌学者のパスツールは1865年にファーブルを訪問している。 ファーブルがアヴィニョンでアカネの研究に明け暮れていた頃だ。 わざわざ自宅まで訪ねたのは、当時フランスを悩ませていた蚕の病気について 解決方法の研究を恩師デュマから…

昆虫学的回想録ーSouvenirs Entomologiques

ブログを読んで下さっている方からコメントを頂戴した。 仕事で疲れ果て、それでも好きなファーブルのことを深夜に調べながら 何とか掲載している者にとっては有り難いことである。 ファーブルとは比べようもないが、一人で何かをやり続けるというのは 最も…

ラボレムスーLaboremus

ファーブルはラボレムス-Laboremus というラテン語を好んだ。 歴代の邦訳は以下の通りである。 働け(昆蟲記 叢文閣、ファーブル昆虫記 河出書房) 努めよや(ファブル昆蟲記 アルス) 我ら働かんかな(ファーブル昆虫記 岩波書店) さあ働こう(完訳ファー…

ファーブルの疑問ーヨブの苦難

以前「ファーブルの疑問ーセネカの答え」というブログを書いた。 ファーブルの疑問は、神がこの世を創造したのなら、悪の存在や食物連鎖の 問題を含め、なぜこんな不完全なシステムを創り上げたのかというものだ。 それに対してセネカの「摂理について」とい…

キノコの水彩画ークロハリタケ属

ブログを書き始めて一年が過ぎた。 月に数回更新するだけなのだが簡単ではなく、頭の中はいつもファーブルに関する 話題について考えている。読んで下さる方のためでもあるが、自分の考え方が まとまりやすいのでブログを書いている意味はあるようだ。 まだ…

キノコの水彩画ーLepiota radicata

ファーブルが描いたキノコの水彩画に Lepiota radicata がある。 今はこの名前は正式名として残っておらず語源は不明なのだが、ファーブルが命名 したのかもしれない。 似た単語 Lepidoptera を思いつき、関係がないのかどうか少し調べてみた。 Lepidoptera …

キノコの水彩画ーエミールの名前

昆虫記第10巻でファーブルはキノコについて言及している。 19章の「幼年時代の思い出」を読み直してみたが、おそらく訳しにくいであろう ファーブルの文章がすんなりと入ってくるので、あらためて訳の有難さを感じた。 この章では自身が描いたキノコの絵につ…

キノコの水彩画

ファーブルが描いたキノコの水彩画は非常に綺麗で、存命当時からその存在は よく知られていた。特に絵を習ったわけではなかったが、ファーブル先生は絵の 才にも恵まれていたようだ。 1907年頃、ファーブルが困窮しているときにキノコの絵のコレクションを友…

ファーブルの墓の謎ーファーブルの格言

セネカの倫理書簡集全124通の中には、死や魂について興味深いことが何度も 書かれている。もちろんファーブルも読んでいたことだろう。 第82通より わたしたちは自分が知っているこの世界を良く知っている。しかしどのように 退去するのか。またその後行くと…

ファーブルの疑問ーセネカの答え

ファーブルはこの世界に対する疑問を持っていた。 つまり、神がこの世を創ったのならなぜ災いや不幸があるのか?というものだ。 これは他の生物を糧にすることでしか生きられないような、不完全なシステムに なぜ縛られているのか?という問いともリンクする…

閑話(6)-メーリアンの絵

先日、ファーブル館のサイトを拝見していたら画家メーリアン(1647-1717)に ついて書かれていた。 女性にもかかわらずスリナムへ移住し、植物、昆虫などスケッチして帰国後 手彩色の画集を出版したというすごい方である。 このメーリアンという名前を見て久し…