昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

コルシカ島ーレヌッチからの手紙(続)

(一通目の手紙…続き)

このように、まず発熱があり、次に試験があり、また最後に熱が出たという訳で、

長くご無沙汰していたのには3つの正当な理由があるのです。

 

先生はわたしにドノヴァニィ巻貝と二枚貝のスケッチをお尋ねになりました。

もしかしたらわたしが間違っているかもしれませんが、先生が発たれる数日前に、

わたしはドノヴァ二ィ巻貝を差し上げたと記憶しております。

いずれにしても、そのスケッチをすることは不可能です。

というのはもう見つけることが出来なくなってしまったのです。

もう一つの二枚貝ですが、プレは見つけてほしいというわたしの依頼を丁重に断り

ました。まあこの象の様な男が拒否したとしても、先生も全然驚かれないでしょう。

 

でもちょっと考えてみますと、いつわたしたちは先生をアジャクシオにお迎えする

幸福を味わえるのでしょうか?

どうぞお急ぎください、なぜなら生徒たちは首を長くしてお待ちしていますし、

先生のご友人たちも一刻も早くお会いしたいようです。

あなたが発たれた後、コレージュは混乱しておりまして、特に哲学科です。

それにヴィーコ、カミリ、ゴデアニ各氏は学校を去ったようです。

そういえば物理の器具が届きました。しかしそれらは箱の中に横たわったままです。

 

例外は電気動力の機械の新しい台板で、これも最初のうちは使われない憂き目をみた

のです。これらの箱が届くやいなや、ビュック先生は前述の台板を素早くつかみ据え

ました。しかし彼がクランクで操作を始めたと同時に、それは多くの破片となって

落ちてしまったのです。

わたしにすればビュックが彼の生徒たちを驚かせたに過ぎないのです。

なぜならそこには彼が探していた電気に関するものは何もなかったのですから。

けれど彼はかなり遠回りの方法でどこまで物質の可分性があるか証明したかったのだ

と思うのです。

 

ファーブル夫人にご挨拶をしたいと思いますが、先生に伝言をお願いします。

わたしは奥様のご用立てをしましたので、今度は反対に奥様に、わたしに代わって

お嬢さんに千のキスをして下さるようお願いしたいと。

 

夜の10時です。眠気が襲ってきましたのでこの辺にいたします。

わたしの両親が先生と先生のご両親に千の友情の印を、と申しております。

次回のお手紙を待つ間、先生に強い握手をして、あなたの友人の誠実な友情を捧げ

ます。

追伸)レヴィは考えを変えました。彼は先生によろしくとわたしに言い伝えました。

   もうすぐエクスに出向くつもりなので、先生に手紙を書くことでしょう。

 

注) 

ドノヴァニィ巻貝:Marginella Donovani

二枚貝:Isocardia cor いずれも邦名は見当たらず。

プレ:54歳の引退した砲兵。

コレージュ:日本の小学6年~中学3年に相当。ファーブルはフェッシュ中学の物理

      を担当した。

お嬢さん:第3子アントニアは1850年10月生まれなので1歳5ヶ月の頃。

レヴィ:Levie 標本収集の協力者、19歳で元教え子。

エクス:Aix 南仏の古都。

 

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 アジャクシオ、パラタ岬とサンギネール諸島。

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 アジャクシオ、フェッシュ通り。