昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

閑話(14)ー病気を経験するということ

7月にブログを書いてから6ヵ月も過ぎてしまった。 空いた理由はいろいろあるが、大きな病気を経験したことが特に大きい。 体調は夏頃から特別良いわけでもないが、目に見えて悪いということもなかった。 いつも秋に体調を崩すので、まぁ今年は無理しないでの…

ミノタウロスセンチコガネー獲得形質遺伝の否定

昆虫記第十巻4章に「ミノタウロスセンチコガネの美徳」という題の文が掲載されて いる。ここではミノタウロスセンチコガネの番(つがい)が他の虫と異なり、子育て に関して非常に情熱を持っており、雄は子育てをする雌を支え続けることが述べられ ている。…

ミルとファーブルの交流(続)

(ミルからファーブルへ) 1873年4月30日 ご丁寧な手紙をありがとうございました。 しかし、あなたの発見のおかげで、この地方にはまだ採集すべき貴重な種がたくさん あり、それらはすべて同時に成熟するわけではありませんので、この春、あなたと 一緒に採…

ミルとファーブルの交流

ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)はイギリスの功利主義者としても よく知られている。また、ファーブルが迫害されアヴィニョンを追われた時に、資金 を融通してくれたファーブルにとっては大恩人と言える。 借りた大金を後にファーブルは誠実…

閑話(13)ー最後の原稿 "ツチボタル"

ファーブルが晩年に書きかけていた原稿があったことは、昆虫記第十巻22章終わりに ルグロ博士が述べている。第十巻23章ツチボタル、24章キャベツのアオムシはまさに ファーブルが昆虫記第十一巻の最初の2章として予定されていたものだった。 他にもオウシュ…

猫の帰巣本能

昆虫記第二巻第八章において、ファーブルは猫の帰巣本能について言及している。 「わが家の猫の物語」という題にあるように、自身の転居体験と飼い猫の話を交え ながら帰巣本能に関する話が展開される。同巻第七章が前回ブログで触れた「ナヤノ ヌリハナバチ…

ナヤノヌリハナバチの帰巣実験

ファーブルの書いた昆虫記にはいろいろな実験や観察が出てくる。19世紀当時には あまり行われていなかった動物行動学と言うべきものである。ファーブルの研究対象 が主に昆虫なので、小生はファーブルを昆虫学者と言わせてもらっているが、本来は 昆虫行動学…

アルマスを訪ねた日本人ー市河三喜

毎度の話だが、あまりにも部屋が散らかってしまい足の踏み場もなくなったので、 仕事休みに少しづつ整理した。だんだんと年を取ってくると本の片づけも出来なく なるだろうと思い、いつもなら手を付けない書棚の奥まで入れ替えた。もう使うこと もないだろう…

戦争ー未刊原稿より(2)

- 戦いの栄光について語れ!とアンドレは書いている。 このような "狂人" の言うことに耳を傾けてはいけない。 一人一人が自分の畑を作りキャベツや大根を栽培しよう、そして野心家が栄光を手 に入れるため一人旅に出れば、ありきたりの盗賊として出迎えられ…

戦争ー未刊原稿より(1)

正月早々にあまり好ましい題ではないが、ファーブルの未発表原稿の中から以下に 一篇ご紹介する。今現在も実際に世界では戦争が続いている。自身を栄光でまとった 政治指導者の誤った先導により、多くの犠牲が毎日のように報道されている。昔も今 もこれから…

ファーブル伝 譯者序ー椎名其二

椎名其二は昆虫記第一巻のみで中断してしまった大杉栄の昆虫記訳を引き受けたわけ だが、そのほかにルグロ博士のファーブル伝も翻訳されている。昆虫記と同じ出版社 の叢文閣から大正14年に刊行。科学の詩人(ファブルの生涯)という表題である。 この本には…

閑話(12)ーその後

九月末に体調を崩してずいぶん間隔が空いてしまった。 仕事中に急に茶色の蛇のような蠢くものがたくさん視野に入り、眼に何か入ったのか と思ったがそうではないことはすぐに分かった。 飛蚊症のレベルではなく、これはまたまずいことになったと急遽仕事を切…

椎名其二ーフランスから若き日の書簡

この夏に庭にあったイタリアンパセリにイモムシがたくさんついていた。 緑と黒の線が鮮やかなキアゲハの幼虫である。触ると怒ったように臭角なるものを出 して、臭いにおいを何度か嗅がされた。ムシャムシャと葉を食べて、毎日見るたびに 体がひと回り大きく…

最初のファーブル伝

ルグロ博士の書いたファーブルの生涯、いわゆる ”ファーブル伝” は1913年が初版だ と前ブログまでで言及してきたが、実はこの三年前の1910年に最初のファーブル伝と 言えるものが同博士によって刊行されている。 題は " J.-H. Fabre naturaliste " (J.-H. …

ロマン・ロランの書簡ーファーブル伝

今年初めに入手できたファーブルの原稿があるが、いまだに届かない。輸出許可が下 りるのに時間がかかるので、根気よく待っていたがさっぱり連絡もない。 さすがにこちらから連絡してみたが、運送業者は別なので配送はそちらで手続きする ようにというメール…

ファーブルの格言ー De fimo ad excelsa 貴き高みへ

題に掲げた言葉はラテン語で、これを見てピンとくる人は、ほとんどいらっしゃら ないのでないかと思う。相当なファーブル通でも知ってる人は少ないはずで、なにせ 邦訳されていないのだから当然である。小生もたまたま、ルグロ博士の「ファーブル 伝」の原書…

ルグロ博士からボルドーヌへの書簡

ルグロ博士は外科医でありながら政治家でもあり、ファーブルの門下に入って1913年 には「ファーブル伝」を刊行している。また、ファーブルの終の棲家であるアルマス の保全に尽力したとされていて、ファーブルが後世に伝えられるにあたって、重要な 仕事をさ…

ファーブルからボルドーヌへの書簡(続)

引き続き書簡を紹介する。 (ファーブルからボルドーヌへの書簡、ニ通目) 1913年9月18日、セリニャン 親愛なる友へ、 親切に送っていただいた美味しい葡萄の箱を無事に受け取りました。心からお礼を申 し上げます。あなたは私と再会することをとても楽しみ…

ファーブルからボルドーヌへの書簡

ルグロ博士のファーブル伝を読むと、コルシカ島から帰還後のアヴィニョン時代に ファーブルが特に親しくした生徒として三人の名前が出てくる。もちろんファーブル 先生は多くの生徒と関わったはずだが、一緒に昆虫観察などに出かけた間柄として 特に交流が深…

アルベール・ヴェシエール

確定申告に手間取り、コロナの流行にあたふたし、映像を通してだが人間の愚かさを 見せつけられるに至っては、人間とはやはり救われないものなのかと、小生の抑鬱な 気分はますます強くなってしまった。ただ、ひとりで落ち込んでいても何が変わる わけでもな…

エルツェン教授への反論ードヴィヤリオ(続)

ファーブル氏は確かに観察の専門家であり、科学的手法にも精通しています。彼は、 帰納的な方法を誇張することで、どのような間違いを犯すかを知っています。 さて、いくつかの孤立した事実から一般化に反する結論を出すことは、自分自身を 一般化することで…

エルツェン教授への反論ードヴィヤリオ

エルツェン教授からファーブルへの書簡に対し、ドヴィヤリオはファーブルに代わり 反論の投稿を行なっている。1883年の科学レヴュ―という雑誌で、やはり心理学の テーマ部分である。なかなかドヴィヤリオの文章は見つけられないので、参考のため 紹介してお…

ファーブルへの書簡ーエルツェン教授(続)

さて、すべての事実が簡単に観察できるわけではなく、「偶然の観察に頼ったり、 幸運な偶然を当てにしたりしないことが望ましい」(有名なカナダ人、ボーモントの 胃瘻のように)ので、「観察を重ね一つ一つ確認し、事実を誘発し、先行するものに ついて尋ね…

ファーブルへの書簡ーエルツェン教授

ブログ「アヴィニョンの生徒たちードヴィヤリオ(続)」の中で触れたように、 ローザンヌの生理学者であるエルツェン教授からファーブルへ書簡が送られた。 これに対してファーブルは不信感を抱き返信をせず、この書簡は科学雑誌レビューに 投稿される。つま…

アヴィニョンの生徒たちードヴィヤリオ(続々々)

そもそも、ファーブルの知人のジュリアンが、なぜこのようなファーブルの書簡を 有名な雑誌に投稿したのかという疑問がある。前年がファーブル生誕百年だったこと もあって、ファーブルをより広く知ってもらおうとしたのかもしれないが、もっとも 大きなきっ…

アヴィニョンの生徒たちードヴィヤリオ(続々)

(ファーブル書簡:ドヴィヤリオ宛て四通目) 親愛なる友へ あなたは暇ですか?犯罪者は逮捕されてますか?どちらのケースかによって、私の 手紙を無視するか、読んで返信するかを決めて下さい。 ここに仕事のすべてを紹介します: 私の膜翅目の研究では、非…

アヴィニョンの生徒たちードヴィヤリオ(続)

前回ブログに続きファーブルからドヴィヤリオ宛ての書簡を紹介する。他にも書簡は あったはずだが、残っていないのか公開されておらず残念である。二通目以降の書簡 は一通目から三年ほど経過してしまっている。 (ファーブル書簡:ドヴィヤリオ宛て二通目)…

アヴィニョンの生徒たちードヴィヤリオ

昆虫記第一巻第1章スカラベ・サクレの冒頭は素晴らしい文章で、長い昆虫記の中 でも小生が好きな部分の一節である。 集英社版完訳ファーブル昆虫記第一巻上より以下に引用。 「ざっとこんな具合に話が進んでいった。私たちの人数は五人か六人、私がいちばん …

シスター・アドリエンヌ

部屋が散らかってしまい、床に置かれた本が邪魔で人ひとり歩くのがやっととなり、 不愉快も限界に達したので片づけに着手した。進化論にブログで言及したくらいから 平積みが悪化したようだ。全部の本を読めるわけでもないのに買ってしまい収拾が つかなくな…

コルシカ島ーレヌッチの消息

”コルシカ島のファーブルーレヌッチへの手紙” や ”コルシカ島ーレヌッチからの手紙” などレヌッチという人に関するブログを以前書いた。 レヌッチはファーブルのコルシカ島時代の教え子で、その後ファーブルと交流を続け 貝類収集の手伝いをしていた人である…