この効果を得るためには、下着、シーツ、マットレスカバー、服、毛布その他
類似した物は、沸騰したお湯の中で約15分煮沸するのだ。絶対に煮沸する前に
汚れた物を洗濯屋に出してはいけないよ。
その他の物、マットレス、藁布団、クッションなどで、煮沸した湯に浸けることが
出来ない場合は、窓に目張りをした部屋に集める。床に水を撒き部屋の真ん中で
幾ばくかの硫黄に火を点ける。それから部屋を出て、ドアは窓と同じく目張りを
してそのまま放置しておく。4~5時間後に殺菌は終わる。焦げた硫黄質のガスが
伝染性萌芽を殺したのだ。
最後に患者が寝ていた部屋の家具や床は、まず大量の水で洗い、次に硫酸銅
(胆礬たんぱん)を薄めた水で洗う。壁は壁紙が張ってない場合は石灰で白くする。
根源を叩いて伝播を食い止める同じような方法は、すべての伝染病に用いられて
いるのだ。 (以上)
作家の吉村昭氏の名作で「雪の花」という作品がある。
江戸末期に天然痘の大流行と闘った町医の生涯を描いたものだ。
牛が稀に罹る牛痘という病気があって、これに罹った人は死ぬことはないが
幸いなことに天然痘に罹患しないという話を聞き、これを何とか北陸福井まで
持ち込めないか苦心するという話である。
ひとたび流行が始まれば、人々は死んでいき大八車に乗せられ荼毘に付される
のみで為す術もない。
自分は何も得をすることはなく、ただ感染して亡くなっていく人々を救いたい
という一心から行動を起こす町医者の話だが、欲というものがない医師の鑑と
いえる実話で、興味のある方はぜひ読んで頂きたい。
ファーブル未刊原稿「天然痘」後半部分。