昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ミルとファーブルの交流(続)

(ミルからファーブルへ)

1873年4月30日

ご丁寧な手紙をありがとうございました。

しかし、あなたの発見のおかげで、この地方にはまだ採集すべき貴重な種がたくさん

あり、それらはすべて同時に成熟するわけではありませんので、この春、あなたと

一緒に採集することが許されるなら、一度だけでなく何度も行きたいと思ってます。

そこで、来週の土曜日、11時46分(鉄道時間)にオランジュに到着する列車で行き、

5時40分にオランジュを通過する列車でここに戻ってくることを提案します。

宿泊はいたしませんが、ご希望であれば、昼食をご一緒させていただこうと思ってい

ます。

 

注:この書簡がミルが生前書いた最後の手紙とされている。ファーブルの言うとおり

宿泊してのんびりすれば良かったのでないかと思うが、断ったのは何か用事があった

のか、それともアヴィニョンに戻る方が気を遣わないで済むと感じたのだろうか。

5月3日土曜日昼前の列車で到着し、ファーブルと15マイルにおよぶ植物採集をたった

5~6時間で行い、日帰りでアヴィニョンに戻るのは強行日程すぎる気がする。

アヴィニョンに帰ったあと月曜日には悪寒が出現し発熱してしまったようだ。地元の

ショファール医師が丹毒と診断し、ニースのセシル・ガー二―医師に応援要請の電報

が打たれている。火曜にはガーニー医師も到着したが、既に手遅れでミルは5月7日の

水曜日午前7時に逝去した。発症して二日後には亡くなるという現在では考えられない

ような病状悪化のスピードである。人から人へうつるものでないと思うのだが、南仏

で当時流行していたというのだから、さぞや怖れられたのではないかと想像できる。

 

ミルが臨終の際に義娘ヘレンに言った言葉が伝えられている。

"You know that I have done my work." 

これは何と訳すのだろう?直訳すれば、"あなたは私が自分の仕事をやり遂げたこと

を知っているでしょう" だが、"私の仕事は終わったよ" とか、"仕事はやり遂げたよ"

の方が良いのかもしれない。ミルが逝去間際に自身の人生を振り返って、成すべき

仕事はもう全てやった、悔いもないという意味なのだろうが、この言葉を真に理解

するにはミルの業績や人生をもっと学ばなくてはならないのだろう。