昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

キノコの水彩画ーLepiota radicata

ファーブルが描いたキノコの水彩画に Lepiota radicata がある。

今はこの名前は正式名として残っておらず語源は不明なのだが、ファーブルが命名

したのかもしれない。

似た単語 Lepidoptera を思いつき、関係がないのかどうか少し調べてみた。

Lepidoptera はチョウやガなど鱗翅目の学名だが、lepis は古典ギリシャ語で鱗の意味

である。ちなみに後半の pteron は翼なので、鱗翅目は鱗粉と翼を持った生物となる。

翼竜のPteranodon プテラノドンの前半部の語源は同じだろう。

 

ではファーブル先生はなぜ鱗を思わせるような名を付けたのか?

このキノコの傘部分は早期に亀裂が生じて、カフェオレ褐色の鱗片状になり剥がれて

いくのだそうだ。(同朋舎出版「ジャン・アンリ・ファーブルのきのこ」参照)

どうもそのような傘表面の変化からLepiotaと付けたのかもしれない。

 

radicata の方もはっきりしないが、別の植物名でこの名前が付いているものがあり

語源は ”根がある” という意味のようだ。ラテン語辞書には植物の根を意味する radix

という単語があった。英語なら root か?

そういえば絵を見るとキノコの根もと部分にひげのようなものが伸びており、

どうもこれを指しているようだ。

 

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所蔵している中から真筆と思われる絵を掲載。

左上に鉛筆書きで Lepiota radicata 1893 とある。

和名なし、カラカサタケ属。

パリ自然史博物館サイト、同朋舎出版「ジャン・アンリ・ファーブルのきのこ」、

「Jean-Henri Fabre Pilze」Matthes&Seitz 刊に全く同じカットは掲載されていない。

 

ただしこのファーブルの描いたキノコは現在の分類では、その特徴からみて正式には

Macrolepiota mastoidea であろうとのことだ。

傘中央の乳頭状の突起から mastoidea という名をつけている。

つまり、大きな鱗と乳頭状突起のあるキノコという語源になる。

 

そして東洋書林刊 世界きのこ大図鑑によると、その和名は "シロエノカラカサタケ" 

となっており、この命名もなかなか面白い。

唐笠(からかさ)は和傘の総称、元は唐から伝来したようだ。から傘おばけという

妖怪を思い出すが、和名の意味は ”白い柄の和傘のようなキノコ” ということになる。

 

主にヨーロッパに分布し、8月~11月に広葉樹林や牧場で普通にみられる。

高さは最大20㎝、傘径は最大で12.5㎝程度。

味は美味でクセもないそうだが、アジアで見られる類似種のドクカラカサタケは

外観は似ているものの、有毒で嘔吐・下痢など胃腸系の中毒症状を起こす。

 

蝶は鱗粉を奪われると飛翔できなくなるそうだが、このシロエノカラカサタケの

傘から鱗片状に剥がれていくものは何か意味を持っているのだろうか。

残念ながら調べた範囲ではわからなかった。

 

原色・原寸世界きのこ大図鑑

原色・原寸世界きのこ大図鑑

 

 

きのこ絵

きのこ絵