昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

閑話(11)ー蛾のはなし

少し前、長い通勤の途中に何をするでもなく、ぼんやりと外を眺めていたが、急に 電車内で女性や高校生がキャーキャー言って騒いでいる声が聞こえてきた。 朝から何だろうと思っていると、どうやら大きめの茶色い蛾らしきものがバタバタと 不規則に飛び回って…

ファーブルの詩:数-神の理性(続)

巨大な蟻塚のごとき未知の世界、 そして新星輩出のすさまじい作業場、 溶解した核が宙吊りで浮遊させる 散りばめられた太陽の超自然的堆積、 未だ白熱する宇宙空間の物質を漂わせ 燃え盛る闘技場で一丸となり転げまわる。 彼らは、砂漠の砂塵と同様、渦を巻…

ファーブルの詩:数-神の理性

ファーブルは29歳の頃、コルシカのアジャクシオで「数」という非常に長い詩を書い ている。数学にのめりこみつつも、博物学とどちらかを選択しなければならなかった 時期である。しかしその詩の内容は、思いを才に任せ書き散らした印象も受けるので ファーブ…

ファーブルと数学

ファーブルは20歳台の頃、数学の魅力に取りつかれていたといっても言い過ぎでは ないかもしれない。一方で博物学にも強い興味を感じていたファーブルはどちらを 選択するべきか迷っていた。将来に向けていったい自分はどちらを専攻すれば良い のか、若いファ…

コルシカ島のファーブル:モキャン=タンドン(続々)

以前のブログでタンドンの写真を掲載したが、写真撮影のその日からちょうど一年 後の1863年4月15日に58歳の若さで逝去している。 ファーブルの師、植物学者のルキアンも63歳とファーブルに比べるとかなり若くして 逝去しており、二人の死因は何だろうとずっ…

コルシカ島のファーブル:モキャン=タンドン(続)

博物学者モキャン=タンドン (1804~1863) はファーブルの人生において重要な人物 の一人なのでもう少し述べておきたい。 そもそも日本語表記はモキャンなのかモカンなのか?集英社版はモカン=タンドンの 表記である。大正期叢文閣版はモカン、岩波の山田吉…

コルシカ島のファーブル:モキャン=タンドン

以前のブログで、ファーブルのルキアン宛ての書簡内容が、ファーブルにしてはやや 強引ではないかと書いた。本来はルキアンのように島全体を移動しながら植物や貝類 など採集するのが理想だが、教師をしながら決して金銭的にゆとりのあるわけでも ないファー…

コルシカ島のファーブル:レノゾ山

忙しさのせいにしてなかなか筆が進まない状態だ。小生の体力で日曜まで働き続け れば体調を崩すのは目に見えている。働けるというのは有難いが、いつ楽になるのか 分からないのでは気分が晴れることもない。 それでも先日、ファーブルの原稿が海外で出品され…

閑話(10)ー桃山さんの昆虫画

桃山さんの作品展が昨日までだったので、重い腰をあげ久しぶりに東京に出かけた。 休日でこんな時期だから電車もあまり混雑していないように思えた。日曜だというの に午前中に仕事が入っていて、終わってから都内に行くのも億劫だったが仕方ない、 今日を逃…

コルシカ島のファーブル:ルキアンへの書簡(続々)

コルシカ時代にファーブルからルキアンに宛てられた書簡は23通残っている。 ファーブルの動向を知るにはとても参考になるのでもう少し続ける。 「1850年10月13日、カルパントラからアヴィニョン宛て、17通目の書簡」 拝啓 カルパントラの数学教師エイセリッ…

コルシカ島のファーブル:ルキアンへの書簡(続)

引き続き、ファーブルのルキアン宛て書簡の中から内容を紹介していく。 すべての書簡を紹介出来れば一番良いのだが、特にファーブルの心情の表れている ものを抜粋した。残念ながらファーブルが受け取ったはずのルキアンからの書簡は残 っていないようだ。 …

コルシカ島のファーブル:ルキアンへの書簡

コルシカ島時代のファーブルの動向には非常に興味があるのだが、ルグロ博士の ファーブル伝を読んでもあまり詳細には書かれていない。学校や生徒たちのこと、 病気の事、もちろんコルシカの自然、貝類や植物の収集、そしてルキアンのことなど 若き日のファー…

エスプリ・ルキアンとは誰か

アヴィニョン生まれの植物学者エスプリ・ルキアン (Esprit Requien 1788~1851) という名前を知っている人は、ファーブルについての知識がかなりある方だと思う。 小生も昆虫記やファーブルの伝記など読むうちに、この変わった名前の人物を知った のだが、…

レモン売りの少年ファーブル

ファーブルの両親はなぜか故郷を離れカフェをあちこちで開業するのだが、なかなか うまくいかず、店を開いては閉め、閉めては開くということを繰り返す。 いったいどこにそんな資金があったというのだろうか?不思議である。 父アントワーヌの肖像は残ってい…

ファーブル昆虫記の旅ー安野光雅さん

画家の安野さんが旅立たれたというニュースを先月みた。昨年12月24日に逝去されて いたとのことで94歳だったそうだ。 30年以上前になるが、安野さんの「ファーブル昆虫記の旅」という番組があったが、 あの番組を見てファーブルに興味を持ったという方もたく…

科学 vs 宗教の渦

先日、「科学と宗教との闘争」岩波新書 昭和14年 ホワイト著 を読んでいたら、 フランスの教会と教育制度の闘いについて書かれていて目に留まった。 小生も以前ブログで触れたが、オルレアンの有名な司教デュパンルーが文部大臣の デュリュイを攻撃したこと…

ゴルトンと優生思想

進化論について考えさせられることが多くなっていたので、久しぶりにグールド博士 の本を何か読みたいと思い、"フラミンゴの微笑" という本を読んでいたのだが、 中にダーウィンの ”人間の由来” 1870年刊行のことが書かれていて目に留まった。 やはり博士の…

閑話(9)-惨敗記その他

昨年は新型肺炎に席巻され特別な年だった。今後、人類が生きていくかぎりこの厄災 のことは伝えられていくことになる。そして、今年もまたどうなっていくのか誰にも わからない。ワクチンが行きわたれば、今ほどの被害は減っていくだろうが安心は できない。…

岩波版ファーブル昆虫記

前回ブログからの流れで、岩波文庫版ファーブル昆虫記について書いておきたい。 昆虫記原書10巻を20分冊に分けて訳しているが、出版の順はなぜかバラバラである。 昭和5年から分冊発行順に初版の刊行年は以下のとおり。 第10分冊 昭和 5年 2月、第 9分冊 昭…

アルマスを訪ねた日本人ー山田吉彦

昆虫記第一巻を大杉栄が翻訳し紹介した功績は非常に大きかったが、昭和5年から 刊行が始まった岩波文庫版昆虫記の出版も日本での昆虫記普及に貢献したはずだ。 (やっかいな昆虫名の和訳は古川晴男博士が手伝うことで解消されている) この岩波文庫版ファー…

ファーブルの天才論

昆虫記第6巻3~4章にはファーブルの天才に対する考え方が書かれている。 天才というとその優秀な才能を持った人物のことを指している印象を受けるが、 ここでは主に生まれ持った特別な才能、天賦(てんぷ)の才を意味している。 ファーブルは自身の昆虫に対…

フランシス・ゴルトンー天才と遺伝

どんどんファーブルから離れているが仕方がない。ファーブルとダーウィンは切り 離せないのでもう少し続けたい。 フランシス・ゴルトン(人類学者・統計学者、イギリス人、ダーウィンの従弟、 生没1822~1911年でファーブルと同世代)について前回も触れたが…

パンゲン説の証明ーゴルトン

前回のブログにコメントを頂戴しました。読んで下さる方がいるということは有難 いことです。当ブログは小生の怠慢もあり、検索しても引っかかりにくいような現状 ですので、他にも読んで下さっている方々には、当ブログを見つけて頂いたことに 対し深く御礼…

アルマスを訪ねた日本人-桑原武夫

先日、「フランス印象記」桑原武夫著 昭和27年 三笠文庫という本を読んでいた。 桑原先生は京大出身の高名なフランス文学研究者で、スタンダールやルソーなどの 翻訳も多い。今まで全く読む機会もなかったのだが、通勤途中にぱらぱらと中を眺め ていて驚いた…

大杉栄のこと(続)

何年前になるか忘れたが、都内の某古書店から大杉が扇子に書いた漢詩調の直筆もの が出た。小生にはその書かれた内容はさっぱりわからなかったが、筆跡は本物である ように見えたので、すぐ書店に連絡をしてタイミング良く入手することができた。 書かれた文…

大杉栄のこと

大杉栄の名を知ったのはもちろんファーブル昆虫記の翻訳者としてである。 無政府主義者で、大正12年9月1日11時58分に発生した関東大震災後の9月16日に、 憲兵に連行され殺害された。明治18年(1885年)に生まれ、大正12年(1923年)に亡くな ったのでまだ38歳な…

ユラ県レルウスのファーブル邸

前回ブログで椎名其二について触れたが、交流のあった人物の中に作家の芹澤光治良 (こうじろう)という方がいる。 たくさんの作品を書いておられるものの、小生には縁が無かったのだが椎名其二との 関連で目を通すようになった。「女の都・パリ」昭和34年 …

昆虫記の翻訳ー椎名其二

昆虫記第1巻を訳した大杉栄の後を受けて、昆虫記第2巻から4巻までを翻訳したのが 椎名其二である。他にルグロ博士のファーブル伝も訳されている。 いったいこの人はどういう方なのだろう?ファーブルとのつながりが小生には分から なかったので、以前からず…

仏訳「種の起原」ークレマンス・ロワイエ

クレマンス・ロワイエ (Clémence Royer 1830~1902) という女性がいた。 フランス、ナント生まれで将校の父の影響で幼少期にスイスで亡命生活をしている。 科学者、フェミニスト、フリーメイソン?…どういう肩書がフィットしているのか わからない。代表作が…

パンゲン説

ダーウィンの話ばかりでブログの本筋から離れるが、ファーブルが昆虫記内に おいて進化論批判を激しく展開している以上、触れておかざるを得ない。 ダーウィンは「種の起原」の中で、生物が後天的に獲得した能力が遺伝することは 認めているのだが、これは副…