昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ファーブルの詩:数-神の理性(続)

巨大な蟻塚のごとき未知の世界、

そして新星輩出のすさまじい作業場、

溶解した核が宙吊りで浮遊させる

散りばめられた太陽の超自然的堆積、

未だ白熱する宇宙空間の物質を漂わせ

燃え盛る闘技場で一丸となり転げまわる。

 

彼らは、砂漠の砂塵と同様、渦を巻き

広大で手ごわい雲を生み出す、

鉄の肺を持つハムシン、

埃っぽい砂漠に猛烈なうねりを起こしながら、

地表を掘り起こし、筋を立て、繰り広げる、

海の波のように。

 

いかなる制御も効かない激情的な一群として

奇妙なめまいに取り憑かれたもののように、彼らは進む

空の隅々で怒り狂ってぶつかり合う。

彼らは進む、毛髪を引きずる興奮したカオスで。

破壊し尽くす炎、そして恐るべき風貌で

彼らは空を揺すぶり徹底的に破壊する。

 

炎で蝕まれた彼らは落ちて行く、地獄を横目に見て、

火は焼け付く熱さを吹き出し、束になって拡散する

この素晴らしき国で。

彼らは行く、地獄を両側に、深い道を辿って、

ある日生命が芽吹くに違いない、

傷口のかさぶたを固める秘密の小径を辿って

 

彼らの胸の中は混沌とした、襲い来る猛火だ

そこでは一つの世界が入念に作り上げられ、燠火の層の上に

横並びに投げ置かれ散乱した要素が

妄想に身をよじり、堅く抱き合い、

彼らの類似点という強力な法則の下で

密やかなつながりで互いに絡みついている。

 

神よ!なんとあなたの空は広いことか!なんとあなたの心は崇高であるか!

私は、この混沌この地獄を遥か遠くに超えて、

冒瀆的な視線を投げかけた。

虚しい望み、すべて満たされている。

半狂乱の恐怖で私は見る、広がりが終わりなく満たされていくことを私は悟る、

終わりなくすべての部分を埋め尽くすことを。

 

全ていっぱいだ。権力者は空間を測った

自分の手のくぼみで、彼は顔を他方にむけた

虚無の側面へと、そして彼の脇腹は震えた。

それらは突然震え、肥沃になって、いっぱいになった。

虚空はそこにあった、黒く、ぽっかりと、満たされず、渇望して。

しかし彼が右側を開放すると、空間は満たされた。

 

虚空はその貪欲な飢えに満たされた、

その大きく開いた口に洪水の如く流し込まれた糧で

世界は埋もれてしまった、

不完全な胃袋にとってあまりに大量だったため

怪物は消化することが出来ない、巨大に膨れたその腹は

埋められたばかりの世界を保つことができない。

 

すべて満杯だが、手ごわい驚異、

みな目まぐるしく動きだす、

もし耐え難いまなざしがこの競争を瞑想できたとしても、

全てが動き、雷より素早くすすむ、

ぶつかり合い、粉々になるかのように、

規則なく、同時に混じり合う

 

彼らは天空、無限の円形劇場に去る

その軌道を順番に、抱きかかえ、解き放ちながら。

狂おしいほどの情熱で、

陶酔の中で彼らは行く、交差し、脅かし合いながら、

無秩序な跳躍で抜きつ抜かれつ、

彼らの車軸は軋む、炎症でひりひりとして。

 

放浪のシステム、古よりの軌道、

火の迷宮、惑星の渦、

おどろおどろしい星座の踊り、

すべてが動き、交差し、絡み合い、そして押し合う、

異常な陶酔の中で、うねり、行き来する、

そして休むことなく自身の革命を続ける。

 

見よ、天の深みから静かに立ち上がった。

荒れ狂った二つの天体は空間上の隔たりをたちまち無にしてしまう、

誇り高く無口な巨人たち。

彼らは走る、定められた円形の軌跡に導かれて、

額と額を突き合わせ、その巨大な質量をぶつけて

そして脇腹は大きく裂ける。 

 

彼らの荒々しい通過で混乱させられた世界は

制御できない変動へと走る、おぞましい予兆、

そして遠くから彼らのぞっとするような浮かれ騒ぎを見る。

ところがここに!偉大なる神は、かれらの脅威を迂回させた、

あるいはかれらの残忍で猛々しい強力な衝撃で

空は怒り狂った破片となり消えてなくなるだろう。

 

無意味な心配だ、あの上方の、狂気の円形劇場では、

賢明な調整役、数がこれら調教できない使い走りたちの手綱を取る。

数はよだれを垂らすリヴァイアサンたちの口に馬銜(はみ)を付ける

そして筋張った手で彼らを小道に連れて行く。

 

彼らの軛(くびき)の下の臀部はむやみに身震いし湯気を出す、

軽薄に彼らは鼻孔からどろどろした溶岩の激流の泡を吹き、

後肢で無意味に立ち上がる、

彼らの興奮した飛節の上にいて、数は彼らをなだめ、

順々に制御し、彼らの脇腹に神聖な拍車を当てる。

 

数、天の息子、数はこの大天使であり

空において燃えるような彼らの手足を追いかけ

その指で彼らの飛翔をなぞる。

光り輝く大天使は大きな翼の下で、

物思いにふけり、彼の不死の手は

金の枝の羅針盤を握っている。

 

天空の平原の無秩序と戦争を排除し、

制圧したカオスの上で、

自分の定規、規範、レベルを示したのは彼だ。

彼は話す、そして不動で重い天体を太陽の周りに集め、

二つの隣り合った窪みを持つ

楕円の盲壁空間を貪り食いつくす。

 

秩序は彼の法の下で生まれる、錯乱の中の秩序。

混沌の中の秩序、そしてこれらが調和した和音を奏でる天上の竪琴。

煙の立つ軸の上にシステムを均衡させ、

至高のコンサートに魅了され軸を止めてしまう、

天上でしか聞けないコンサート。

 

ああ!すべてを語るには、口に出す言葉はあまりに虚しい。

美しい旋律溢れるコンサート、

ひとの耳にまで、もし天空の聖歌隊の響きがあれば、

この神々しい和音が、もし蒼白な顔の微かなイメージでも届くのなら、

人間は恍惚と歓喜で死んでしまうだろう。

 

宇宙をその極の上でゆっくり揺り動かす数たち

その輝かしい丸天井を揺るがない車軸の上で支える数たち

広げなさい、あなたたちの法則や調和を展開しなさい、

空間と時という二つの無限の海の中に。

数は神の理性だ。

 

注)

ハムシン:カムシン北アフリカアラビア半島で吹く、砂塵嵐を伴う乾燥した

高温風のこと。

リヴァイアサン:聖書に登場する海中の怪物、悪魔

 

(追記)

ファーブルが感ずる神は、自然と同一なのだろうか?

晩年のインタビューで彼はあちこちに神を感じ、神は光だと述べている。

自然の中に神を感じていたのかもしれないが、自然と同一ではなく包含するような

存在を考えていたのではないかと小生は考えている。

ファーブルはこの世の食物連鎖を不完全なシステムと考えていた。将来サプリのよう

なイメージのもので簡単に栄養補給できるようになるとも述べている。

これらは以前のブログでも述べたことだが、小生が想像するファーブルとはかけ離れ

ており意外だった。

他者の命を自身の体に取り込まないと生きていけないようなシステムは不完全という

考え方だ。これはベジタリアンでも同じことで、植物であってもそこには命がある

からである。つまり生物がこの世で生きて行こうとするなら食物連鎖に入らざるを

得ないということになる。そして神=自然ならこのような不完全なシステムを創った

神も不完全ということになり矛盾する。したがって神と自然を同一には考えていなか

ったのではないかと小生は勝手に解釈している。

 

ではどうすれば良いのか?

食物連鎖に束縛されないファーブルの考えた理想の世界は、体という肉を脱ぎ捨てた

魂だけの世界ということになる。つまり ”あの世” ということで、ファーブルはこの魂

の世界を固く信じており、「より高貴な生を送る世界」と考えて自分の墓石にも格言

の形で刻んでいる。そして、今も愛息ジュールをはじめ先立った子供達、愛妻、父、

母、弟フレデリックらの魂と交流しているのだろうと小生もまた信じている。

 

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ファーブル、数学ノートより「パスカルの蝸牛形」部分、

残念ながら原稿はなくコピーのみ挟まれてあった。