昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

パンゲン説の証明ーゴルトン

前回のブログにコメントを頂戴しました。読んで下さる方がいるということは有難

いことです。当ブログは小生の怠慢もあり、検索しても引っかかりにくいような現状

ですので、他にも読んで下さっている方々には、当ブログを見つけて頂いたことに

対し深く御礼申し上げます。また、改行調整が下手でPC以外のスマホなどで見ると

見苦しいままの文章構成になっていることを陳謝いたします。

 

ファーブルと子供達との関係性(特にジュール)は、小生も非常に興味を持っており

ますので、今後もあまり知られていない資料を見つけた際には、ブログで報告して

いきたいと思っています。コメントをいただいた前ブログの桑原先生の訪問記に

ついては、アルマスに関する文章を残してくれていた桑原先生にひたすら感謝する

ばかりです。他にも昔、アルマスを訪問された人がいたかどうか調べていますが、

だいたい有名な画家や作家などは巴里どまりが多いです。あとは惜しいところで、

ファーブルの友人でノーベル賞作家ミストラル邸への訪問があるくらいです。

ミストラル邸まで行ったのならアルマスにも行って欲しかったですが…。

 

コメントで触れて頂いた通り、ジュールと過ごした時間がファーブルにとって最も

幸せな時期だったのかもしれません。ファーブルにはアヴィニョン時代、一緒に野外

観察などしていた優秀な生徒も数名いました。その後、名を残す3名については

ファーブルの晩年まで付き合いが続きます。3人は早逝した息子ジュールより7歳ほど

年長になりますが、彼らが立派になっていく成長過程に、ファーブル先生はジュール

の面影を見ていたかもしれません。きっとジュールなら彼ら同様、いやそれ以上の

人物になっていたはず、と思うこともあったのでは?と想像します。

3人はそれぞれ判事、医師、動物学者となり、ファーブルの葬儀の際に弔辞を述べた

方もおり、彼らとの交流についてはまた別の機会に触れたいと思っています。

 

(以下、パンゲン説のブログの続き)

獲得形質の遺伝を説明するために、パンゲン説なるものを捻り出したダーウィン

だったが、従弟のゴルトン博士がその証明を試みている。

フランシス・ゴルトンはダーウィンと同じくエラズマス・ダーウィンを祖父に持っ

ているが、祖母が異なりダーウィンよりは13歳年下である。Galton は発音的には

ガルトンかゴルトンで良いように思うが、邦書訳ではゴールトンの表記が多い。

 

ゴルトンは22歳の時に父親を亡くし莫大な遺産を相続したため、アフリカ探検を

したり旅行記を書いたりと好きなことをしていたが、本が売れて名前も知られるよう

になっていた。やはりダーウィン家の血筋というべきか、非常に優秀だったようで、

統計学の分野でもゴルトンの名は今も残っている。

 

実験については、個体が後天的に獲得した形質が、ダーウィンの言う各組織にある

ジェミュールというものに記憶され、それが最終的にその個体の生殖細胞に集まり

後代へと伝わることで遺伝していくというパンゲン説に対するものである。

ゴルトンはジェミュールが当然血液を介して移動すると捉え、したがって特徴の安定

しているあるウサギの血統種に対して遠縁の別のウサギの血液を輸血すれば、血統種

の子孫に輸血したウサギの形質が新たに発現するはず、パンゲン説が正しいならば

そういう変化が見られるはずだと考え実験を繰り返した。

ゴルトン邸は当時、実験用の兎であふれていたという。

 

ところが一向に他のウサギの形質を思わせる変化が血統種の子孫には見られないと

いう結果になった。ダーウィンのパンゲン説は従弟のゴルトンによってはっきりと

否定されたのである。これは1871年3月にロンドン王立学会で発表された。

まあ、しかしダーウィンも黙っていてはせっかく捻り出したパンゲン説を守れない

ので、ゴルトンの実験に対する反論を有名な科学雑誌ネイチャーに掲載している。

その内容は、ゴルトンは血液内にジェミュールが存在し移動する前提で実験してい

るが、ダーウィン自身は自著において血管内ということは言っておらず、この説は

原生動物のような血液も血管も持たない生物や植物も参考にしていて、血管の存在

とは無関係に細胞から細胞へとジェミュールが通過、拡散していくことを考えている

と述べている。これだと輸血で確かめようとしたゴルトンの実験手法そのものを否定

するようなものである。

 

ゴルトンはこの拡散 diffusion という用語に対して、これは液体に対して使う言葉で

あって固体に対しての使用は適切でないと、また反論しているが、表立っての強い

否定はその後控えたようだ。ダーウィンへのリスペクトか親類としての忖度かもしれ

ないが、一般的にパンゲン説を信じる証拠はないということで、この獲得形質の遺伝

を説明できるというパンゲン説を支持する人は少なくなっていった。

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1869年~イギリスで発行の週刊学術雑誌「Nature ネイチャー」

画像は1871年4月27日発行分で、”PANGENESIS” パンジェネシスと題し、ダーウィン

の名でゴルトンの実験結果への反論が掲載されている。

 

   

フランシス・ゴールトンの研究
 

  

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