昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ファーブル昆虫記の旅ー安野光雅さん

画家の安野さんが旅立たれたというニュースを先月みた。昨年12月24日に逝去されて

いたとのことで94歳だったそうだ。

30年以上前になるが、安野さんの「ファーブル昆虫記の旅」という番組があったが、

あの番組を見てファーブルに興味を持ったという方もたくさんいたかもしれない。

南仏とファーブルゆかりの地を映像で紹介してくれるのはとても新鮮だった。

映像は小生宅にも当時販売されたVHSテープが残っていたが、もはや視聴のできる

デッキは持っていない。それではと、DVDだと思ってサイトで購入してもらったもの

も、届いたら何やらとてもサイズが大きくて、よくよく見ればレーザーディスクとな

っておりがっかり、せっかく入手したのにこちらも視聴できていないという有り様で

ある。残念なので動画サイトも調べたが、今はアップしているものも見当たらず、

何とかもう一度見てみたいと思案しているが、今更デッキを購入するのもどうかと思

って、仕方なく安野さんの出演された外国でスケッチをしている映像やラジオ出演時

のものなど視聴している。

 

昨年夏に館林美術館で安野さんの展覧会があったが(安野光雅 風景と絵本の世界)、

こちらも例のごとく小生の怠慢と体調の悪さ、忙しさ、コロナの影響など諸々重なり

ついに見逃した。まだまだ見れるチャンスはあるだろうと思ってしまったのか、秋田

の椎名其二展よりずっと行きやすかったはずなのだが、フットワークが重いというの

は小生の短所である。まあいざとなれば安野さんの美術館に行こうなどと考えていた

のかもしれない。津和野の館は美しいと聞いているのでぜひ行ってみたい。

安野さんの魅力はどこにあるのか。あの水彩のタッチに癒されるのか、安野さんの

人柄なのか。むっくりされた体型か朴訥としたしゃべり方なのか?

前に先生をされていたからなのか、戦争を体験されているからなのか?

嫌味なく隠さずに話される姿勢にこちらは共感してしまうのかもしれない。

94歳ならファーブルよりも生きわれわれを楽しませて下さったということになる。

もっとも以前ラジオで仰っていた話だと、先生も大病されていたそうで定期通院され

ているようなことだったから、病気を抱えつつ好きな絵を描いてたのかもしれない。

今は奥本先生が出演された「ファーブル昆虫記ー南仏・愛しき小宇宙ー」という映像

をDVDで見れるが、安野先生の「ファーブル昆虫記の旅」もぜひDVDにして欲しいと

願っている。

   

安野さんは文章も書かれ、2017年に山川出版から出た「本が好き」の中で、昆虫記に

ついて触れておられる。昆虫記原書を日本まで持って帰った話は小生も知っていたが

安野さんの美術館に保管されているのだそうだ。今なら古い原書もネットで注文でき

てしまう時代だが当時はそうでなかった。持ち帰るのが容易でなかったから、実際に

現地に行ってみようと思えたかもしれない。便利というのは、便利ではあるが不便で

もある。いくらグーグルマップで現地に立ち風景を眺めても行かなくては見えないも

のはたくさんあるはずだ。

他に印象に残っている本に「ちくま文学の森2 心洗われる話」筑摩書房 2010年刊の

中で、ルグロ博士のファーブル伝 平野威馬雄訳の中から ”ファーブルとデュルイ” の

部分を編者だった安野さんが選ばれていることだ。ファーブルを気に入った文部大臣

デュルイとの出会いからナポレオン三世謁見あたりの話である。訳者の平野威馬雄

は料理家のレミさんの父上で詳しくは奥本先生の本にも訪問記が書かれている。

博物学の巨人アンリ・ファーブル 集英社新書 参照)

平野先生の父ヘンリー・パイク・ブイは日本美術に関係する本を出版されているが、

ファーブルが謁見した席に同様に呼ばれていたそうだから、やはりファーブルとは

何かしら縁があるのだろう。そして、平野先生自身も昆虫記を訳した大杉栄と面識が

あり、実際にアルス社のファーブル科学知識全集では田園の保護者部分の翻訳を受け

持っている。平野先生はとてもユニークな方だったようで、また別の機会にぜひ触れ

たいと思う。

 

日本に友好的で安野さんに応対したファーブル館元館長テオッキさんも、ファーブル

の曾孫ストヤノヴィッチさんももう旅立たれている。今や館は改装され、その後の

女性館長さんはあまり日本にフレンドリーではないようだ。今は誰が館長なのだろう

か、アルマスに近寄らずファーブルが好まなかったパリばかりにいる館長さんなら、

あの世のファーブルも不本意だろう。いくつか彼女の書いた資料を取り寄せたが、

書簡や写真資料を使ってルグロ博士について書かれた本があり、ファーブル関連で

評価できるのはそれくらいだろうか。

コレクターとしては現在ファーブルの資料を入手しにくくなっているのは残念だが、

もちろんフランスできちんと保管されていくこともまた矛盾する話だが願っている。

ファーブルファンが安心してアルマスを訪れることができる関係性が今後も続き、

あまり大胆な施設の改装が行われないことを願うばかりだ。

 

本が好き

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