昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

戦争ー未刊原稿より(1)

正月早々にあまり好ましい題ではないが、ファーブルの未発表原稿の中から以下に

一篇ご紹介する。今現在も実際に世界では戦争が続いている。自身を栄光でまとった

政治指導者の誤った先導により、多くの犠牲が毎日のように報道されている。昔も今

もこれからも進歩のない無益な蛮行は、人間がある限り続けられていくようだ。

 

「戦争」

"私たちのように寛大で広い心を持つ国は世界のどこにもなく、この高貴な称号に値

するフランス人は世界のどこにもいない"(題言)

 

(”戦争”はファーブルの未刊のお話の中の一篇で、アフリカ帰りのピエール大尉が

彼の二人の孫、アンドレとポールにいろいろな話しを聞かせるという形式をとって

いるものである。ブログ "祖父の教えー未刊原稿より" 参照)

 

- ポールは「(戦争について学ぶなんて) なんて学校だ!互いに虐殺することを学ぶ

学校だ!」と言いました。

騒ぐだけなら幸せな隣人のようなものだけど、弾丸が鳴り榴散弾が降り注ぐとなると

それはまた別の問題だよ。

 

- そう、友よ、まったく異なる悲しい問題だ。アフリカに残した足がそれを物語って

いる。(大尉はアフリカで撃たれ片足が義足である)

-では、なぜ戦争なのか?

-私たちの幼稚な理由はしばしば古い経験を困らせる。今の私なら何と言うだろう。

あなたの前で私は自問する;なぜ戦争なのか?

私より前に多くの人が同じ質問をしている。

どんな有効な答えがあるのだろうか?

人間の中には、文明が完全に抑え込むことができなかった野蛮さがある。

人間の中には、正義よりも爪や顎の力を優先させる野生の本能があるのだよ。

骨の前にいる2匹の犬を見たことがあるか?

獲物を誰が手に入れるのか?戦いが決める、それが戦争なのだ!

 

-「でも、おじいさん」とアンドレは言った。

「人間は、そんな悪党じゃない。」

 

- ああ!何というお人好し!

20年ほど前、隣国のドイツ人が3人対1人の数で押し寄せてきたことがあった。

武力は法に優先する、という飢えた犬の理屈で骨抜きにされるのだ。

強力な機械が出す獣のような格言により、2つの県が失われた。

学校で習ったフランスの大きな地図を覚えてるか?

 

- そうだ、「あそこの右隅に黒い印がある」とポールは言った。

- その場所は、ドイツの餌食となったフランスのアルザス地方とロレーヌ地方の2県

にまたがっている。この地図は、より良い日が来るまでその2県を喪のベールに包ん

でいるのだ。

 

- そして、住民たちはどこに行ったの?とアンドレは問う。

彼らはドイツ人になったのでしょうか?

もし、外国人がやってきて、フランス人らしさを否定し、国の評判に唾を吐き、

誇り高きプロイセンになれと言ってきたら、私はその無礼な者を認めてしまうだろう

と思えるのです。

 

- 我が国のように寛大で広い心を持つ国は、世界のどこにもない。

この高貴な称号に値するものは、世界のどこにもないのだ。

君は1000倍正しいだろう、友よ、しかし、君は最強だろうか?

侵略者の野蛮な格言を忘れたか?

- その時、アルザスやロレーヌの住民はどうしたのか。

- 多くの人が、最も辛い犠牲を払って、幼い頃に親しんだこの国を後にしたのだ。

また、生まれ故郷の土地に不滅の絆で結ばれ、再びフランス人になるという希望を

神聖な火花のように心に秘めている者もいた。これらは最も同情されるべきものだ。

彼らの息子は、いつか彼らの友人、両親、兄弟を撃たなければならないかもしれない

兵士を作るために、彼らから連れ去られる。

多くの若者が憲兵隊に追われながら、忌まわしい軛を背負うことなく国を出ていく。

彼らは先祖代々の財産である父の家を捨て、私たちのもとに避難し、万一戦争が勃発

したときには、弾丸を圧制者に向けて蓄えておくのだ。

 

- 勇ましいですね。

- しかし、その代償は大きく、彼らの財産は没収される。

- あなたの言っていることは不愉快です、おじいさん!

 

-忌まわしいものばかりだ。

しかし、これは戦争、つまり征服戦争であり、地方を略奪し、人口を群れのように

処分するものだ。まっとうな言葉で言えば、この戦争をブリガン(強盗)と呼ぶ。

 

では、あなた方が征服戦争と呼ぶこの恐怖にひるまない民族がいるのですね。

 

- 嗚呼 そうだね、というか、どの民族もひるまないね。隣人を撃って他の民族の不幸

を作らなくても、自分たちの不幸だけで十分だ。しかし、こうした平和主義の先頭に

立つのは、野心家、つまり愚か者とでも言おうか、大きな名声を得るために虐殺の

請負業者となる者かもしれないのだ。これは、自分を栄光で覆うということだ。

(以下続く)