昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

新型肺炎と喫煙

20世紀初めのスペイン風邪の話やパンデミックという言葉を知ってる人はいても、

まさか今、自分たちの身に降りかかることになると予想していた人は少ないはずだ。

親類、知人らまで罹患することになれば、いつ我が身に起こっても不思議でない。

ガンなら旅立つ準備も別れを交わす時間もあるが、新型肺炎が重症化すれば何の準備

もできないまま、鎮静剤で寝かされ呼吸器を装着されることになる。

同じ旅立ちであっても大きな違いで、送る側も送られる方も耐え難いことだ。

数%の死亡率などと報道されれば、当然自分はその中に入らないと勝手に解釈する

のが普通の人間の思考である。したがって、真に大切に思っている相手がいるなら、

そのような事態が起きたときのことを、今からシミュレーションしておいた方が良い

かもしれない。

 

ファーブルは愛煙家でパイプで喫煙していたが、それで体調を崩したということは

なかったようだ。ファーブルのように長命で、喫っていても病気が目立たない人も

いれば、本人が喫わないのに受動喫煙で病気になる方もいるのだから人体は難しい。

喫い方や本数、たばこの種類などで程度は変わり、重症度や病気のタイプは様々だが

やはり一般的には喫煙のデメリットは大きい。

小生の爺様は長めの煙管で暇があれば喫っていたし、父もかなり喫っていたのだが、

ある時ピタリと止めた。病気をして寿命を意識したのかもしれない。

その気になれば止められるんだ!と子供心に驚いた記憶が今も残っている。

 

疾患が終息したらいろんな統計が出るだろうが、肺疾患を持病として持っている方や

喫煙歴の長い人はどう考えても新型肺炎には不利だと思われる。

同じ喫煙による病気でも、息切れが強くなるタイプもあれば、常に痰が気管にからみ

ゼイゼイ苦しくなる人もいる。

息切れが強くなるタイプは主に肺気腫である。

その名の通り肺が空気で腫れていて、原因のほとんどが喫煙による。

ピンと来ないと思うが、肺気腫の肺を部屋に例えれば、柱などが弾力性を失って

ヨレヨレになっている感じだ。一つ一つの部屋は壁が壊れ大きくなって膨らみ、

不自然に広くなっているのだが、肝心の出入り口は潰れ易くなっているので、

部屋の中の空気は出ていきにくく換気が悪い状態である。

 

そして気管支にあたる出入り口までの廊下もスムーズでなくなり、人体なら存在する

はずの異物を掃除してくれる線毛は動きが悪い。

滑らかで線毛の動きも良い肺なら異物は付着残存しにくいが、肺気腫になれば外部

からの侵入者は排除されにくく、換気の悪い肺の奥に隠れられるのでウイルスには

都合の良い場所になる。そんな場所でどんどん増殖していくのだから予後は厳しい。

肺気腫など肺機能が低い場合は、呼吸器を装着した際の管理も難しく不利になる。

もともと酸素を血管に取り入れる面積は減っているので、一部でも肺炎を起こせば

健常者に比べ格段に血液中酸素の低下を招くのだ。

 

新型肺炎は拡がり続け、おそらく抗体を持つ人が増えることでしか終息に向かえない

ようだ。いずれは風邪を起こすウイルスの一つに過ぎなくなるのだろうが、それまで

多くの犠牲が出てしまうのが無念である。

よく効いたという報告のある薬も出てきて期待は持てるが、最終的には体力次第。

どんな薬も体力が無ければ効果は望めない。

自分の持つ免疫力で勝負しなくてはならないのだから、体調維持と持病の管理、

そして今からでも喫う方はぜひ禁煙するべきだろう。

 

我々の免疫細胞は常に体を巡回し侵入者がいないかパトロールをしてくれているが、

新しい敵を認識するには少々時間がかかる。

相手を認識できる前に不可逆なダメージを肉体が負うことは避けなくてはならない。

したがって、ひどい肺炎になるまでに少しでも時間を稼ぐ必要があるのである。

新型と一戦交えなくてはならないのに、主戦場の肺に煙など吸い込んでる暇はない。

それでは自陣に煙幕を張り自爆しているようなものだ。

生まれてからずっと我々を守ってきてくれた免疫細胞たちに、良い状態で戦える場を

設定してあげるのは最低限の義務でないかと考える。

  

  

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