昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

新型肺炎、進化論のこと

新型肺炎の猛威が止まらない状況で心配している。

ブログを書く余裕も失われているという情けない状態だ。

当初は人~人感染は無いと言っていたが、風邪の原因菌としても知られるコロナ

ウイルスに属することが分かっているなら、感染すると考えるのが当然のはずだ。

なぜそんな楽観視できるのか、危機意識が乏しいのか小生は不思議に感じていた。

 

春節前位に出入国を厳格化しなかったので拡がるのを怖れていたが、その通りに

なってしまい非常に残念に思っている。

ただし発病元の隣国で未だ患者発生が続いているので、例え出入国を厳格化して

いたとしても近隣である本邦への流入は時間の問題だったかもしれない。

それにしても世界保健機構がここまで機能不全だったとは思っていなかった。

 

新型は罹患してもほとんどが軽症で済み、致死率は少ないと言われても安心できる

はずもない。一部であっても治療法のない肺炎を起こすのだから怖いのは当然だ。

何が怖いのかと言えば、肺は呼吸をする所なのである。消化器など他の場所の病気

とはわけが違う。

ウイルスを自力で抑え込めなければ拡がり、呼吸する場所が無くなり、肺呼吸を行な

って生きている人間は生命維持ができなくなるという、生物としての弱点を突かれて

いるのだ。

 

そして不幸にも亡くなられた方など出ると、必ず持病があったというニュースが

一緒に流されるが、それもどうかと思っている。

なぜなら日本は平均年齢が高く高齢社会である。そもそも持病を持たない人の方が

珍しい。いや高齢者に限らず例えば糖尿病なども今や国民病とも言われ、中年世代

で持病のある人は多いのであるから、持病の有無は何の安心材料にもならない。

また、ここ数日は若い人の感染も少しずつ報告されてきているので、全世代に渡り

安心と言えないことが分かってきた。

 

インフルエンザももちろん怖いが、一応薬がある。また多くの人が罹ったことが

あり、乗り越えてきているので恐怖を感じるということにはあまりならない。

したがってテレビで医師等がインフルエンザと比較して、今回の新型肺炎のこと

に言及しても全く安心感は得られない。

 

電車を利用せざるを得ないので乗っているが、マスクをしている方は多い。

いつも7人掛けの席で何人マスクを着用しているか数えるのだが、先日は7人共

していたのでみんな心配しているのだろう。

インフルエンザが非常に流行した年であっても、このような装着率は見かけない。

マスク不足だがそれでも何とか入手してみんな着けているのである。

 

マスク不要論を唱える方もいるが、やはりこれにも小生は賛同できない。

完璧と思っている人は少ないと思うが、それでも何とか少しでもリスクを減らそう

と努力しているのである。

感染力が高いことはもうはっきりしている。

人口密度の多い国で狭い電車に乗り、咳やくしゃみなど人間なのだから出ても

当たり前である。花粉症の人も多く、風邪か新型かアレルギーなのか、たまたま

乗り合わせた赤の他人から見て判別が付けられるはずがない。

だからこそみんなマスクをしているのである、少しでも浴びないように。

  

サーズの時もずいぶん心配したが、今回のコロナウイルスよりは身近には感じ

なかった。最悪のことを考えてしまうのは小生の悪い癖かもしれない。

ただ、何も心配しないで安穏としているような方もたまに見かけるが、彼らに

同調できるほどの神経は持ち合わせていないのだから仕方ない。

 

つい昨年の秋までこんなことになるなど考えていなかった人がほとんどだろう。

前にブログで述べたが、天然痘が昔流行した時も平和な生活が急に脅かされた、

大規模な感染症は自分や家族の生命危機を突然意識するようになるのである。

20世紀の初めにスペイン風邪という病気が世界で大流行し多くの方が亡くなった。

新型インフルエンザだったと言われているが、ファーブルの信奉者でフランスの

エドモン・ロスタンという作家は罹患し亡くなっている。

 注:シラノ・ド・ベルジュラックで有名。息子は生物学者ジャン・ロスタンで

   両生類を研究、ファーブルの著作もある。

ファーブルはすでに逝去した後でスペイン風邪とは関係ないが、天然痘には罹患

しており顔に瘢痕を残している。

 

普段はノーガードでも、いざという時に即座にリスク回避できるような態勢を

取れるリーダーはいないものか、切望するばかりである。

こういった時に正しく即決即断を下せるというのは、すべての危機管理に共通

するはずだと小生は思うのだが。

 

以前、サーズやマーズという、やはりコロナウイルスで致死率が高かった伝染病

が流行した。この時も今と同じような治療法が試みられていたという記憶がある。

つまり回復治癒した人からウイルスに対する抗体があるだろうと思われる血液を

患者に輸血するのである。他にもいくつか薬が試されたが決定的な治療薬は無い

まま終わったと思う。

この時ワクチン製造には数年かかると言っていたが、未だにサーズワクチンが

出来ていないのはどういうことなのだろうか?

病気が収束したから研究が進まなかったのか、何かうまく行かない理由が発生

したのか。いずれにしてもサーズワクチンが完成していれば、今回役に立ったの

ではないかと残念に感じている。

つまり、前回のコロナウイルス襲来の際に人類が抱えたはずの宿題が未完成の

ままであることが、現在の新型の流行につながっているのではないだろうか。

 

ファーブルはダーウィンと親交があり、書簡も残されている。

ダーウィンから依頼された実験も行なっているが、進化論には賛同できなかった。

ダーウィンとの関わりはまた別の機会に触れてみたいと思っているが、今回の

新型肺炎について進化論と何か関連性があるものだろうか?

 

コロナウイルスの一種であるサーズウイルスは前回流行した際に、感染の拡大は

阻止された。広く世界に拡散しウイルス自身を増やしていくという点からは失敗

したとも言える。そして我々人類の多くの人がこのウイルスを終わったものとして

記憶の片隅に置いた。

 

しかし、ウイルスを意思のある生物に例えるなら、虎視眈々と戦略を練っていた

期間だったということになる。緻密な戦略である。

前回は致死率を上げすぎ拡散もできず、人類に警戒もされ阻止された。

そこで致死率を下げ、軽症又は無症状の潜伏期間を長くすることで、人間は歩き

回りウイルスは拡散が容易になるという戦略を取った。

呼吸器系の伝染病なのだから消化器系の病よりもより散布されやすい。

風邪と区別が付かなければ診断が遅れ隔離されるのもずっと遅くなるというわけだ。

しかも本来は生体に取りつかなければ生存期間が短いはずのウイルスであるはずが、

コロナは何日も生きているというではないか。

つまり人々が触るようなところは大体同じ場所で限られているのだから、

ウイルスが長生きしていれば、我々がウイルスを触る機会は格段に増してしまい、

他または自分へ次々と移していくことになる。人間社会において、きわめて蔓延し

やすく駆逐しにくい性質を持ったウイルスなのである。

 

一見、致死率が低いということはウイルスの強弱で言えば強くないと勘違いされそう

だが、種の保存という点から見ればそうとは言えない。

弱い方が感染される側も油断し防御が甘くなる。そして、感染した宿主を死なせない

方が生きてまき散らすことになるので、ウイルス自身から見れば好都合なのである。

 

どうせなら他の動物に罹患してくれればなどと考えてしまうが、やはり人類のように

増えすぎた集団で移動も多い生物に感染する方が、増殖拡散という点からはウイルス

のターゲットになりやすいのかもしれない。

植物、動物に限らず集団でいる生物の方が伝染病は流行しやすい。

ウイルス側からみれば種の保存の点から、人類は利用しやすい集団だと考えられる

のだ。もし将来にわたりこの新型が長く生き残り、拡散増殖できるチャンスが増す

という理屈が通れば、現在の環境で自然選択、自然淘汰された微生物ということに

なる。

 

あたかも意志を持つかのように書いたが、もちろんウイルスは意思など持たない。

進化論的に言えば、たくさんの変化、変異を繰り返す中で、その時の環境…

つまり人間が密集して暮らすという状態によく適合したタイプが偶然出現したので、

急速に拡散したという複雑だが単純な論理なのだろう。

そして小生のような呼吸器の強くない人間はビクビクすることになるのだが、

この新型肺炎がさらに拡散を続ける事態になるなら、人類はサーズの流行から今日

まで17年もの猶予期間を有効に活かせなかったという反省に立たなければならなく

なる。

 

  

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