昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ファーブルの未刊原稿について(補遺)

直近のブログでファーブルの未刊原稿をいくつか紹介した。

内容は専門的というよりも啓蒙的といった内容で決して難しくない。

ファーブル先生は、読者がやさしく興味を持てる内容を常に心がけていたのだろう。

今後もテーマごとに紹介していきたいと思っているが、手間ひまかけて掲載する意味

がどこまであるかはわからない。

ただ、現在と当時の考え方の違いや、ファーブルがテーマごとにどういった考え方を

持っていたのか推察できるので、小生は意味があるものと思っている。

現在から見ても大して進歩していないと思える内容もあるかもしれないし、ずいぶん

古くなった知識しか当時はなかったのだと知ることができるかもしれない。

 

最近は新型肺炎ウイルスが話題になっている。コロナウイルスだというのでサーズ

の再来かと心配したが、そこまでの感染力はなさそうだと聞きホッとしている。

(どこまで本当かわからないが....)

こんなことなら近縁のサーズワクチンを完成させておいて欲しかったと思うが、

いつ流行するかわからないもののために、ワクチンを開発製造し備蓄するのは

難しいのだろう。

 

前回まで感染症としてファーブルの未刊原稿から天然痘の話題をブログで書いた。

今でこそ駆逐されたウイルスだが、日本でも流行を繰り返し多くの犠牲者を出して

きた。対策のない伝染病が流行するのはいつの時代も同じで、われわれはその都度

恐れおののくのである。身近でバタバタと亡くなる人が出れば、自分も死を覚悟し

なければならなくなる。

例えば、今も天然痘が流行しワクチンも開発されていなかったらどうだろう。

天然痘は赤い色を嫌うと信じられていたので部屋中赤いものにしたり、西洋では

古くは患者に嘔吐させたり瀉血を繰り返したり、余計に具合悪くなるような根拠

のない治療を施していた。

日本では疱瘡神の起こす疫病だと信じ、祭って祈っていたとも言う。

 

根拠ある治療としては、人痘を使ってワクチンを行い対策をしていた。

つまり軽く済んだ病人から採取したカサブタなどを鼻に入れ接種するのである。

無事に済んだ人には有効だったが、天然痘にあえて罹らせるのだから重症になる人

も中には出てくるわけで、死亡例も出れば副作用の点から牛痘ワクチンに取って

代わられることになった。

牛痘は副作用が減り良かったのだが、難点は人から人へワクチンをつなぐので、

接種に際して梅毒や肝炎ウイルスが混入することでこれは大問題となった。

このため人にできた疱疹をいったん牛に戻して、それを再度人へ接種したり、

初めから子牛の皮膚でワクチンを製造するといった方法が考案された。

(近代医学の先駆者 岩波現代全書 参照)

 

牛痘によるワクチン接種を開発したジェンナー博士の功績は大きい。

パスツール狂犬病ワクチンのブログでも述べたが、ワクチンというものはいつも

理解されず普及に苦労した。

ワクチンの安全性など説明したところで一般人には理解が難しく、たとえ理解した

としても本能的にワクチン接種自体が怖いという気持ちを払拭するのは困難だ。

怖い病気が流行していても罹らない場合もあるのだから、接種は避けたいと考える

人も多い。無知による恐怖からのワクチン忌避を乗り越えるというのは、ハードル

が高かった。

 

しかし、何とかしたいという使命感を持っていた医師は多かった。

吉村昭氏の作品に出てくる「笠原良策」もその一人だ。

ジェンナー博士だけでなく、日本にも高邁な精神を持った医師はたくさんいた。

使命感を持ち一生をワクチン普及に捧げた生き方に頭が下がるばかりだ。

 

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ジェンナー氏其子息ニ牛痘試種之図(明治25年 東京医事新誌附録より)

 

イタリアのパラッゾ・ビアンコ美術館に1878年モンテベルデ作の上図大理石像

がある。ただし、自分の子に最初に接種したというのは事実でないようだ。

(小児を救った種痘学入門 加藤四郎編著 創元社 参照)
 

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