昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ファーブルの墓の謎ーDraped Urn

ファーブルの墓石で最も目立つのは十字架の代わりに上部に設置されている

オブジェである(fabre tombe で画像検索してみて下さい)。

最初に見て思ったのは女性の頭部に似ていると感じた。

南仏はマリア信仰が残っている地域である。まだ何も考えてなかった頃、小生は

このシンボルを見て、きっとマリア様に違いないと勝手に思い込んだ。

それからいろいろと調べてはみたのだが、ファーブルとマリア信仰を結ぶものは

何も出て来なかった。 困ってしまって葬祭に関連する書籍や、果てはフランスの

墓地で中を見られるところをグーグルで歩いたりしてみていた。

 

そのうち、どうもこのオブジェが壺であることがわかった。ファーブルの墓石の

ものは形が滑らかでスリムだが間違いないようだ。

ではファーブルのこのオブジェの上にかかっている布状のようなものは何だろうか。

最初は髪の毛か女性が頭に被るヴェールに似ていると思ったが、似たようなものを

見つけそれが Draped Urn と呼ばれるものであることがわかった。

Drapeはドレープで元々は布きれの意味、ヒダの入ったカーテンやスカートなど

ドレープと言うらしい。Urn アーンは骨壺で良い和訳がついていないのだが、

ファーブルの墓石に設置されているものはドレープ壺型のシンボルであるという

結論に達した。

 

ではこのドレープ壺は何を意味しているのだろうか。

骨壺は灰を入れる容器、つまり身体を意味する。

そしてドレープ布はこの世とあの世を分けるものである。

死者に対する神の御加護を示しているとも言われるが、古典ギリシャ芸術の見直し

が流行し18~19世紀に欧米でも一般的な葬祭シンボルだったらしい。

灰は火葬を連想させるのだが、キリスト教徒であってもこのシンボルを使用する人達

は珍しくなかったようだ。

ただそうは言っても、小生が調べた限りフランスの墓地では明らかに十字架が多い。

やはりクリスチャンなら十字架が選択されるのは当然のことだと思う。

 

フランスの著名人で壺型のシンボルを墓に設置している人がいるかどうか調べた

のだが数人見つかった。

有名なところでは詩人のマラルメがいる。

1867年頃アヴィニョンに在住しておりファーブルの同僚であったとの話もある。

以前調べたことがあるがファーブルとの接点を示す資料は見つけられなかった。

まぁ、たとえ一緒に働いていたとしても畑違いである。

息子アナトールは1879年に 8歳で早逝していて、お墓はパリの南東40kmの

サモロー(Samoreau) というコミューンの中にある。

円柱形の墓石にマラルメの名も刻まれている。このサモロー墓地はセーヌ川

そばにあり親子が好んだフォンテーヌブローも近いが、墓地自体は大詩人にしては

小さく質素なものである。なぜここなのだろうか?とも思ってしまう。

クリスチャンでなかったので公営の墓地に葬られたということだろうか。

お墓は正面門の後ろ奥にあるが木が邪魔で見にくい。グーグルでは墓地のやや左側

からよく見ると縦長の墓石に黒っぽい壺のオブジェが載っているのがわかる。

面倒な方は mallarme tombe で検索を。

 

他に名前の知られた詩人としてネルヴァルがいる。

1855年に謎の自死を遂げたが精神状態に問題があったということでカトリック

葬儀が許された。作家仲間が手配してお墓はペール・ラシェーズ墓地の第49区画に

ある。こちらも円柱形の墓石の上にドレープ壺型のシンボルがついている。

仲間たちが彼に十字架は合わないと判断して選択したのであろうか…

興味ある方は nerval tombe で検索を。

 

お墓に壺型の付いている理由ははっきりしない。

熱心なクリスチャンではない場合で十字架を選ばないとなった時、このシンボルは

流行の形で豪華にも見えるオブジェということなのかもしれない。

壺型の墓の有名人は他にもいたが、宗教が明らかでないので見送った。

マラルメについてはキリスト教と距離を置いたようだ。ネルヴァルについても著作

からキリスト教のみを熱心に信仰したとは思えなかったので掲載した。

ファーブルの墓石のことと合わせて考えると、やはり Draped Urn などの壺型は

非クリスチャンの方々が選びやすい様式であったのかもしれない。

 

ファーブルの墓に刻まれた格言

「死は終わりではない、より高貴なる生への入口である」は来世を思わせる言葉

だが、この世とあの世を象徴する Draped Urn(ドレープ壺)のシンボルは、

彼自身が好んだこの格言に非常にマッチしていると小生は感じている。

 

アナトールの墓のために

アナトールの墓のために

 

 

パリの墓地―フランス文化の散歩道

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