ファーブルは1876年の6月に地理の教科書を出版している。
この初版は全ての公立学校での使用を副題に掲げているが、再販はされていない。
同年9月に同じ地理の本が出ているが、全ての公立学校という副題は消えて、代わりに
私立学校や中学校での使用と書かれており、ずいぶんニュアンスが変化している。
そして、この9月発行の本については1881年の再販が確認されている。
副題変更の理由は不明であるが、アヴィニョンを追い出された後に出た書籍だから、
教科書としての公的使用には横槍が入ったのかもしれない。もしそうであるなら、
迫害はファーブルがアヴィニョンを脱出した後も続いていたということになる。
余談になるが、1929年にファーブルに関する大部の書籍を刊行したオーギュスタン・
ファーブル(ファーブルの叔父さんの子孫らしい)は、1911年にファーブル本人と弟
のフレデリック二人にインタビューした際に、当時、先頭に立ってファーブルを糾弾
したのはサン=ディディエ(アヴィニョンの北東20kmにあるコミューン)の司祭で
あったことを明かしている。40年以上経過してもはっきり覚えており、ファーブルに
とっては相当つらい出来事だったようだ。
この地理の書籍は今はネットで公開されているので内容を確認することはできるし、
安価なコピー本も一時出ていたので問題はないのだが、とにかく原本が出てこない
ことで有名な本である。小生もちなみに原本の存在を一度も確認できていない。
ファーブルの数ある教科書の中でも最もレアなものである。やはりよく売れたものは
市場に出てくるので、この地理の書籍についてはあまり売れ行きが芳しくなかったの
だろう。内容は面白そうなのだが、公的機関での使用が制限されたなら部数は伸び
なかったのもうなずける。
本の中身は第一部では地理学の物理的説明、第二部以降はヨーロッパからアフリカ、
アジアなど主要な国々について言及されており、日本についても記載がある。
気候、産業、人口、主要都市などが書かれ、各章末には関連の質問を添えてある。
例えば、日本の農業について何か知ってますか?
その主な製品は何ですか?
中国の産業との違いは?
国家元首の名前は?
宗教は?
主要都市は?等々が並ぶ。
本文掲載の江戸の風景
江戸日本橋から富士山の風景図か。
教科書「地理学」の原稿 1876年 ドラグラーヴ社刊行
19枚ほど所蔵しているが訂正が多く決定稿でないようだ。
画像は日本の説明の中の質問部分の頁の一部。
下方に「日本」という表題が記載されている。
(p.s.)
アマゾンサイトに若き日のファーブルとされる肖像画があったので掲載しておく。
以前のブログで本当に本人か?と書いた絵で50代頃とされる。
これ以前のものはフランスにも残っていない。
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