昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

気谷さんのこと

美術史家、愛書家の気谷誠さんのお名前は、ファーブルの資料のことでお世話に

なった際に聞かされ知っていた。

それ以上の事は特になかったのだが、少しして神田の古書店に居た時にぶらりと

やってこられた。もう十数年前のことである。店主さんに紹介され挨拶したのだが、

たぶん小生の事はかなり高齢だと思われていたと思う。気谷さんはちょっと意外な

感じの表情を浮かべたように見えたが、すぐにそれは消えた。

あまり他人のプライベートに入らない方なのだろうと思えて、好感を持ったのを

よく憶えている。気谷さんはどの程度の頻度で店を訪れていたか知らないが、

小生は年に1~2回しかその古書店に行けてなかったので、奇跡的な確率でお会い

出来たのかもしれない。

 

スラリとした身体つきで、ご自分が気に入られた本をずっと触っておられた。

特に周囲に構える感じもなく自然体のようで、自由な感じがして印象に残っている。

本についてお話をしてみたかったが、あまりしゃべることは出来なかった。

確か画家のルドンのお話をされていた記憶がある。また古書店のようなものを開き

たいと仰っていたが、その後どうされたかは存知あげない。

実際に開業されていれば、気持ちの良い空間で好きな音楽が流れ、美しい装丁の書籍

がたくさん並べられたことだろう。

 

ブログを書かれていて、文体は知識があって品もあるというか、読んでいて気持ち

良いので今も時々訪問させて頂いている。

急逝されたのを知ったのもブログ経由だったが、古書店主さんに確認したところ、

比較的早く気付いた方だったからかもしれないが 、”よくわかりましたね” と言わ

れた。

 

体調を崩されてからすぐに所蔵しておられるたくさんの貴重本を整理され、

フランスの有名な目録に個人の売り立てとして掲載された。

美しい装丁本などにご興味のある方はグロリエ本について調べてみてください。

お気に入りのバイクで気に入った場所を走ったり、一流の方に自著を装丁してもらっ

たり、なかなか普通の人には真似できない生き方をされていたようだ。

グロリエ本が気谷さんの手に舞い降りたのも必然だったのだろう。

 

病名を知ってからもその落ち着きぶりというか…

普通の人なら取り乱すはずなのだが、見習うべき身の処し方のように思えて

ブログを読むたびに頭の下がる思いがしている。

好きなバイクもみな処分され、書籍同様に次の行先を決めてあげたかったのだろう。

親しかった店主さんも、気谷さんは体調を崩された後も実に立派だったと仰って

いた。

 

斯くあるべしと、コレクターの端くれとしてお手本にしたいと考えているが、

同じ境遇に置かれればジタバタするであろうことは目に見えている。

しかし何となくだが、小生自身も見習ってその時が来るのを意識するようには

なった。

 

ボードレールの詩にデュパルクが曲をつけたものをよく聴かれていたそうで、

これかな?と思われるCDを時々聴いてみたりしている。  

西洋蔵書票や装丁などに興味のある方はブログをご覧になって下さい。

お名前で "ビブリオテカ グラフィカ" はすぐ出てきます。

西洋挿絵見聞録―製本・挿絵・蔵書票

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