おそらく肘の擦り切れた作業服の中では、将来、国を救うことになる
勇気や健気さが脈打っていることでしょう。
私はそれを見てきたし、今でも毎日それを見ています。
貧困は恥ずべきことではなく、しばしば私たちを前に進ませる
いわばレコード盤に音を刻むレコード針のような原動力の役目を果たします。
学校はいろいろな役目をしますが、あなた方がすべて平等な立場でいられる
ように教育を無償で行うわけです。
将来あなた方の長所が違いを分けることになるでしょう。
以上
未刊の原稿だがレコード盤や針の記載があるので1880年代頃に
書かれたものかもしれない。
ファーブルははっきりと教育の無償化に賛成の立場である。
デュリュイが推進しようとした無償化だからということでなく、
ファーブル自身が小さい頃から苦労してきた問題なので賛同するのは
当然のことと思われる(昆虫記第6巻参照)。
貧困は恥ずかしいことでなく前進する力になる、という言葉は
ファーブルの気概を示しているようだ。
デュリュイは文部大臣着任後すぐに初等教育改革案を提出し、
就学の義務と一部無償化を導入しようとしたがうまく行かなかった。
財源の問題等があったようだ。
しかし国が発展するには教育改革は不可欠、教育の義務化、無償化、
非宗教化は少しづつ進み紆余曲折を経て1880年代に実を結んでいく
こととなる。
画像は昆虫記第6巻4章「私の学校」冒頭部分の原稿。
グラッセ教授旧蔵ーフランスの動物学者でファーブルに
批判的であったエティエンヌ・ラボーと交流があった。
ファーブルの研究もされていたようだ。
ファーブル博物館を管理していたガヴァルダ夫人の書簡
も同封されていた(ガヴァルダ夫人については津田正夫著
ファーブル巡礼に詳しい。)
これらはまた別の機会に触れたいと思う。