彼らの希望は牛痘の体液の人工的な接種が、乳搾り作業中に乳首を操作している
指が自然に受ける伝染と、同様の効果をもたらすことだった。
ランセットで軽く傷つけられたところには、できものが現れるはずだったし、
この手術を受けた人たちは仕事中に天然痘に罹った人たち同様、これから先、
天然痘に罹ることを免れるはずだった。
天才のこれらの予測はすべての点で実現された。天然痘の治療法も見つけられた。
また、ワクチンと名前も付けられたが、これはラテン語のヴァッカ (vacca 牛) に
由来する。
ワクチンの操作としては、少量のワクチンの滴をランセットの先で皮膚層に注入
することになる。一般的には各腕に三か所の刺し傷をつくる。
ワクチン注入から数日後、刺し傷点にねばねばして透明で色の無い液体が詰まった
できものが現れる。これをワクチンのおできと呼んでいる。それから、これらの
膿疱はしなびて行き、乾いてしまい、最後にはひとつの殻として落ちてしまうが、
天然痘のおできと同様に消されない傷跡が残る。最も長引いても15日ですべては
お終いになる。
まとめれば、私たちが天然痘に罹らないために、予防接種をする医者は私たちに
ランセットを使ってたいへん良性の天然痘を植え付ける。この病気が再び同じ体
に起こることはないので、軽い天然痘は危険な天然痘を防ぐものになる、という
ことだ。
もう一つ知っておきたいのは、予防接種で使われるワクチンはどこから来るの
だろう、ということだ。牛痘はとても珍しい病気だ。ワクチンをつくるために
牛から直接採取しようとしても、ほとんど困難でできない。
幸いにもワクチンで出来るできものは牛痘のそれと殆ど同じ性格を持っている
ので、その体液は牛のワクチンと同じワクチンである。
最初にワクチンを受けた人は、このようにして自分の腕に出来たできものを
他の人にワクチンとして提供できる。他の人はまた同じくワクチン提供者と
成れる。こうして、こちらの腕からあちらの腕へと移行を際限なく繰り返す
ことができる。今ではいくつかの施設で、ワクチン研究所と言われているが、
必要量のワクチンを得て流通させるために、人工的に牛に牛痘を起こさせる
ことをやっているのだ。 (以上)
「引痘略」より挿入図。
マニラからマカオに伝わった牛痘法を学んだ中国医家が1831年に出版、
種痘を実際に行なっていた。
図は接種する腕の位置を示しているようだ。
同書より。ファーブルが書いているように腕に傷をつけ接種した。
「引痘新法全書」
1846年佐賀藩医 牧春堂は「引痘略」を参考に出版。
牛痘法の有用性とその普及の必要性を説いた。
(佐賀大学地域学歴史文化研究センター研究紀要 7号 参照)