昆虫学者ファーブル雑記帳

フランスの昆虫学者ファーブルに関する話題を書いていきたいと思ってます。

ラッティ大司教の書簡ー(5)

                       1914年6月21日

 我が妹よ、もうずいぶん長いことファーブル氏の健康について

知らせてくれていませんね。あなたはなぜ私がそれをこんなに気にかけて

いるか知っているでしょう。

数日前に帰ってきたところなのですが、すぐにも確認したくてたまらなく

なってしまいました。二つの式典に忙しく、息をつく暇もありません。

 私はパリでクリスマス派の会議を主催しました。「クリスマス」は

とても敬虔で教養のある若い娘たちの協会のようなもので、三万人ほどから

成り、フランスにも外国にもメンバーはいるのですが、特にフランス人が

多くいます。

 「maniere d'Universite」という週刊誌も発行しています。約二十万人の

読者がいます。何度かそこでファーブル氏の作品が引用されました。

クリスマス派はそこで自らの仕事を作り出し、彼女たちはこうして互いに

鍛え合い、憐憫、知性、愛国心を高め、強固にするのです。

 これらの詳細は、あなたの大切な病人を必ずや喜ばせるだろうと確信しています。

どうか彼にそれについて知らせて下さい。

そして私が毎夜、彼と共にいつもの祈りを行なっていると、改めて彼に言って

もらえればと思います。

神が彼を守り、彼を祝福せんことを。

私もあなたを祝福し、あなたの務めを幸せに続けていく力を一新できるよう

願っています。

               アヴィニョン大司教 ミシェル・アンドレ

(p.s)

この文章が掲載された週刊誌名も「クリスマス」という。

若い女性中心の協会であったようだ。

「maniere d'Universite」については不明。

 

                      1914年6月26日

 我が妹よ、あなたの大切な病人の健康状態について書き送っていただき、

嬉しく思っています。ありがとうございました。

しかしながら、もう少し踏み込んだ内容を望んでいます。

あなたはファーブル氏の精神状態や、私の手紙に対する彼の反応について

何も書かれておられません。よろしければ、私が今後何を書けば良いか

思いつけるよう、知らせていただけると助かります。

 それらが望むような良い内容でなくても、詳細をお知らせいただいて

一向に構いません。むしろ私にはそちらの方が有り難いのです。

 そもそも、これは奇跡を呼び起こす恩寵の仕事なのだということを

忘れないようにしましょう…。

               アヴィニョン大司教ミシェル・アンドレ

 

 上記のような大司教の書簡を読むと、ファーブルのカトリック教徒への

いざないは決して順調とは言えなかったようだ。

先日、ファーブルの関連書籍で「人類の教師ファーブル」ワシリエワ、ハリフマン著

杉山利子訳 明治図書出版という本を入手した。

絶版なのが残念だが、他の関連本とは一線を画しておりよく調べられている。

いろんな関係者に取材しており旧ソ連で刊行された本の翻訳である。

書簡には触れていないが、ラッティ大司教のファーブル訪問のことは書かれていて

驚いた。

 その本の中にファーブルの大司教への本音が書かれている。誰の聞き取りかは

記載が無いが、内容は以下の通りである。

「…司教は、わたしの学者としての知力をキリスト教徒の魂に変えるために、

神への祈りをやめないだろう。もちろん、司教も完全とは言えないまでも、

立派な宗教家にはちがいないのだろうが…」

「…わたしは学者であり、自然科学者としての自分の考えで、自分なりに

信仰の慰めを認めている。わたしたちは、お互いに学ぶことはあるには

ちがいないが、しかし信仰の不一致は避けがたいことだ」

 

6月21日の書簡でシスターが連絡してこないことに大司教はいらだっているが、

ファーブルとの信仰の違いが顕著で、シスターは書きたくても書けなかったのでは

ないだろうか。

身近にいたシスターならファーブルの気持ちを感じ取っていたと思う。

 

大司教のファーブルへのアプローチについて、フランス人でファーブル研究を

されている方に聞いてみたが、非常に厳しい意見を持っていた。

政治で言うところのロビー活動に近いという意見だ。

小生はそこまで否定的な解釈はしておらず、カトリック信徒として何とか

導きたいという大司教の思いが込められていたと考えているが…。

 

一般的に伝記などではネガティブな面は語られないものである。

ファーブルについても例外ではない。

小生はファーブル信奉者であるが、あまり知られていない、語られない、

語りにくい、そのような面もできるだけ紹介したいと思っている。

ファーブル自身は頑固で気短であるが、裏表のない、知力・体力、根性に

溢れ、そして弱者に限りなく優しい方だと思う。

しかし、アヴィニョンだけでなく、セリニャンにおいてもファーブルが

どのような扱いを受けたか…少しづつ紹介していきたいと思っている。

 

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 セリニャンのファーブル邸前 息子ポール撮影 右下にサイン。

 

1分間の黙想 祈りの力

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本と虫は家の邪魔 奥本大三郎対談集

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